ヒトの直立2足歩行は、単純には立脚と遊脚の2つの振り子運動としてモデル化されますが、ポールウォーキングは、立脚、遊脚に加え、接地したポールの先端を支点とする振り子運動が加わった3つの振り子の同時運動としてモデル化できるのではないか、従って、ポールウォーキング歩行中の重心の動きは、「ヒトの直立2足歩行の重心の動き」に、「スタンダード技術の力学的な作用と効果」が加わったものになると考えています。
① ヒトの直立2足歩行時の重心の軌跡
立位時の身体重心は、第二仙椎辺りにあり(支持脚の股関節より上方になります)、歩行周期によって上下動、左右動を繰り返します。
支持脚のかかと接地期には、重心は、もっとも低く、中央位を支持脚側に移動しています。支持脚の倒立振り子運動によって、重心は、じょじょに上方に引き上げられ、支持脚側にさらに移動して、立脚中期でもっとも高く且つ支持脚寄りになります。ピークから落下する重心は、遊脚側に反転し出し、遊脚のかかと接地で最低位、中央位に戻ります。
すなわち、ヒトの直立2足歩行の重心の軌跡は、後方から見ると、左右対称の蝶のような形になっています。
② ポールウォーキング時の重心の軌跡
ポールウォーキング時には、スタンダード技術の力学的作用、特に、先端が接地したポールの作用によって、重心の軌跡はより大きな左右対称の蝶型を描くと予想します。
右足を立脚、左足を遊脚として、ポールウオーキング時の重心の軌跡を考察します。
[両脚支持期]
右足:立脚の荷重応答期 左足:遊脚の前遊脚期
右足(支持脚)のかかとが接地し、まだ左足(遊脚)の足趾が接地している状態です。左右両手のポールも接地していますが、身体は両脚で支えられ、重心は両脚の中央上方に位置し、もっとも低位です。両脚の高さは等しい(と仮定している)ので、両者を結ぶ直線は水平で、重心の下方に位置します。身体は前後方向に不安定であり、前方方向へ動かす力に、重心は即時に反応します。重心は、右足(支持脚)の倒立振り子運動に、左手のポールのスイング(これは、前方から後方への倒立振り子運動です)が加わり、前方・右斜め上方へ移動を開始します。
前方に動き出した重心に対する接地した左手ポールの作用は5つ、考えられます。
(a) 左手ポールの接地点と支持脚(右足)で形成される支持基底面は進行方向に直角となるので、重心を進行方向から左右方向に向かわせる力を生みません。
(b) 遊脚(左足)の足趾が離地し、遊脚側(左側)の重心を支える支点が左手ポールに替わると、ポールと支持脚を結ぶ「回転軸」は右下がりとなるので、重心に対して支持脚側へ押す力が加わります。
(c) 先端が接地したポールが、腕のプル動作で後方にスイングされると、身体には前方方向と上方方向への小さな反力と時計とは逆回りの回転力が働きます。
(d) 接地したポールに多少の荷重が掛かり支持脚(右足)の荷重負荷を減らせば、支持脚の倒立振り子運動による重心の上方への動きをその分助けます。
(e) また、左腕のプル動作と右腕のパンチ動作は、体幹の回旋を通じ左足(遊脚)の振り出しを促し、歩幅の拡大を誘発しています。
[片脚支持期]
右足:立脚の中期から終期 左足:遊脚の初期~終期
片脚支持期は、立脚の中期から終期まで、すなわち、遊脚の足趾離地から支持脚のかかと接地までの片脚支持となる期間です。骨盤は遊脚側に少し下がりますが、支持脚側の中殿筋は骨盤を水平に保つように筋活動します。
支持脚(右足)と左手ポールの2つの倒立振り子運動によって、重心は次第に支持脚側に動きつつ前方斜め上方に押し上げられ、位置エネルギーを蓄積します。足関節の真上で重心は最高点に達し、股関節が伸展しはじめ重心が低くなると同時に位置エネルギーは放出され、運動エネルギーとして重心を前方に移動させます。
また、支持脚(右足)の足底は、地面にしっかり密着して重力と摩擦を利用し安定した片脚起立状態をつくりますが、起立した左手ポールにもわずかに荷重はかかるので起立状態を補助します。最高位より落下し始めた重心は、遊脚側に反転移動しつつ、遊脚のかかとが接地する時、最低位となります。
[スタート]
重心と床反ベクトルの中心(身体を支持する力の中心)である圧中心は、両脚の中央にあります。遊脚(左足)側の下肢を拳上するためには、重心が立脚側に移動する必要があります。そのため、まず圧中心だけが遊脚側後方に移動し、重心を支持脚側前方に押します(歩行開始時の逆応答現象)。圧中心も重心も支持脚側に移動しますが、圧中心の方がより支持脚側に移動するので、重心を中央に向かって押し戻し支持脚側への動きを止めます。重心は前方へ回転するように落下し、前進します。
スタンダードスタートのフォームでは、遊脚(左足)に注目し、おまじない「右手~、左足~」の「あ~」で左足を踏み出し「し~」でかかとを接地します。両脚の外側に位置する左右のポールは、立位姿勢を正すと共に、手足の連動意識に加え、歩行に対する恐怖心を和らげることで、下肢の逆応答現象を生じ易くしているのではないか、と推察しています。
作成者:峯岸 瑛(みねぎし あきら)
作成日:2022年11月15日
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