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ALS iPS細胞 アルツハイマー病診断 パーキンソン病 直立2足歩行 髄膜リンパ管機能低下

2025年4月のニュース

新年度入りとあってか、活発な情報発信が行われています。関連学術ニュースで、岐阜大学医学部下畑先生からの最新医学情報、iPS細胞を使ったパーキンソン病治療の第I/II相試験に関するニュース、体幹と脚の相対位相の制御についての研究報告をお届けします。

1.2025年4月の活動状況
田村 芙美子さんの投稿
4/1 令和7年度初回定例会 予定では腰越の丹後が谷公園で恒例のお花見ポールウォーキングの会でしたが、冷たい雨と凍りそうな寒さで、初めて室内🌸🌸花見会となりました。20名のメンバーさんのうち15名出席。ポールで身体を暖めてからおやつに手を伸ばし、注文のお弁当が届くとお喋りの花🌸を咲かせながら賑やかにいただきました。10年目を迎えたこのサークルは広町里山と江の島を拠点にしてきましたが、皆さん歳を重ねて、たまには平らなところも歩きたいと言う希望が出ました。 義経・弁慶の満福寺辺りから始めましょうか。継続は力。

田村 芙美子さんの投稿
4/4 渋谷区健康すくすく事業ポールウォーキング教室2025新学期。 FBアップに3度失敗し(原因不明)これは力尽き4度目なので大幅に省略します。また明日にでも・・・  ※FB不調の原因は更新の為でした

片山昇さんの投稿
今日は良い天気の中東林包括支援センターのノルディック&ポールウォーク5日間教室の最終日 汗ばむようなお天気の中、桜も咲き乱れ、花桃も咲いていてgoodな最終日でした、皆さんとっても物覚えが早く、私が煽られてヒーヒー、来週から自主サークルグループも立ち上がり、皆で楽しくこれからも歩いていただけそうです。100歳まで楽しく歩き続けましょう。(歩かないと歩けなくなる)を合言葉に

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 2025年度PW歩き始め〜 3月の冬眠を経て集まった60名越えのポールウォーカー〜 〜待ってたよ❗️今年もよろしく〜の声をアチラコチラで聴き感激のスタートでした。 次回は来週桜満開?の〜さくラさく小径公園〜を闊歩です。

長谷川 弘道さんの投稿
昨日は、月に一回の津島市天王川公園の早朝ポールウォーキングデーでした❗️ 15名の皆さんにご参加いただきました😊 私の左にいらっしゃるのはこの津島市の日比市長。そのお隣は奥様のみどりさんです。 毎月第一土曜日の朝の7:30から、2本の専用ストックを使ってのウォーキングをみなさんで楽しんでいます❣️ 満開の桜の下、15名の皆さんとご機嫌な時間を過ごしました‼️ 初めての方でも、気軽に参加できるポールウォーキングです☺️ 来月はイレギュラーになりまして2週目の土曜日、5/10になります😊 ちょっとタイミングが遅いかもですが、藤の花が見れるかもです😅 新年度のスタート‼️ 新たなことにチャレンジしてみませんか‼️

NPO法人船橋ウォーキング・ソサイエティさんの投稿
2025/4/5 2本のポールを使うウォーキング 土曜日 | 船橋ウォーキング・ソサイエティ

新地 昌子さんの投稿
2022年から始めた茨城県笠間市でのポールウォーキング講座、今年もやりまーす。嬉しいことに段々仲間が増えてきましたよ。故郷いばらきの元気を応援します。

NPO法人船橋ウォーキング・ソサイエティさんの投稿
2025.4.7 シニアポールウォーキング | 船橋ウォーキング・ソサイエティ

田村 芙美子さんの投稿
4/8 花祭り 三浦ネットポールウォーキング定例会。空は晴れ穏やかなお花見日和の心地よい1日でした。大巧寺からスタートし光明寺まで幾つかお寺を訪ね、行く先々で花祭りに出会いました。ウォーミングアップは妙本寺の広い参道下で。今日はポールがあるので難なく歩けました。そして桜の種類の多さに圧倒されました。

田村 芙美子さんの投稿
4/9 北鎌倉も快晴。@北鎌倉テラススタジオ121。青空に山桜が映えています。ウグイスの美しい声を聴きながら久々のテラスでストレッチング。テラスから見上げる六国見山の頂上は一面淡いさくら色。檜花粉以外良い季節になりましたね。マットに寝転びながら撮りました。

杉浦 伸郎さんの投稿
筋トレより花見 桜色がきれいな爽やかな青空が続いています。こんな時はアウトドアで五感を澄ますのも良いですね。花を咲かせるには、良い土壌(健康体)でなければ育ちにくいですよね。風にあたったり日光を浴びたりする効果は想像以上です。 新年度からスタートした介護予防教室の皆さんもお連れしますのでお楽しみに!

株式会社シナノ(sinano)さんの投稿
佐久市のシナノ、リハビリ対応ポール「しっかり2本杖」を発売|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト

遠藤 恵子さんの投稿
介護予防運動教室終えて 午後からはサロンワークの水曜日!! 加圧トレーニングセッション!! あたたかい!! 気温21.3℃

新地 昌子さんの投稿
コーチとして参加している佐久PW協会の新年度が始まりました。第一回の定例会に約60名の参加者が。待ってたよ〜、なんて声かけられて、毎回こっちが元気をもらってます。 去年から筋トレ担当にされたおかげで、班分けして私がつくとみんな筋トレさせられるんじゃないかとビクビクしてます😆今年もやりますよー。優しくね💕

田村 芙美子さんの投稿
4/10 上皇ご夫妻の結婚記念日は4月10日と話ながら今日の貯筋クラススタート。ウォーミングアップのあとはSTEPエクササイズに取り組みました。補助脚を増やして高くすると腿を90度位あげることになります。ポールの使用は自由。順番に色々な高さに挑戦して下肢強化。バランス能力向上。往復の鎌倉山は桜🌸ストリートで花吹雪のなかを走りました🚙

佐藤 ヒロ子さんの投稿
【花見三昧】    4/6〜10 ほぼ毎日花見  嬉しい春です

中嶋  佳奈恵さんの投稿
『ストレッチポールと出会えてよかった!!』

田村 芙美子さんの投稿
4/11 毎週金曜日午前中は東京渋谷まで出前教室です。雨予報でしたが曇り空のまま夕方まで濡れずにすみました。渋谷PWはこのクラス初のウォーミングアップを1つ1つ説明しながら筋トレまで。そしてポールウォーキング、右手左足~イチニイチニ。肘も引けて皆さん綺麗に歩けました。来週は自己紹介もしなくちゃね。午後は三軒茶屋までまた野暮用でした。

中村 理さんの投稿
春ビタミン色/水仙〜  カタクリ〜 枝垂れ桜〜と春を見にブラブラPW〜❗️ ソメイヨシノはもう少し先に〜ww 菜園始めの玉葱の春植え作業〜 冬越し玉葱は育っています〜 この調子でじゃがいも種植えも来週には〜 このご時世空いてる土が無いくらい菜園中野菜だらけに〜 帰宅後やっと土弄りで 瓢箪型の「陶函」作陶〜 小学孫のクラス体験学習「陶芸」の教材試作作り〜 と忙しい1日でした❗️ 明日も🌸花見PW散策でお出掛けです。

校條 諭さんの投稿
www.tokyo-park.or.jp

Ruri Nissatoさんの投稿
本日は、杉ポ卒業生のきまポ(きままにポール歩きの会)に参加🌸 三鷹駅から小金井公園とその周辺を8㎞。 たくさんの桜🌸を楽しみました。

長谷川 弘道さんの投稿
長谷川 弘道さんの動画

スマイルチームさんの投稿
2025.4.7〜13 活動記録 ☺︎スマイルチーム光が丘 健康チェア体操 21名 ☺︎健康体操サークル 13名 ☺︎スマイルポールウォーキング 12名 ☺︎青空ポールウォーキング 7名 ☺︎青少年部部会 ☺︎上鶴間公民館利用団体総会 ☺︎上溝新サークル活動ライン打合せ ☺︎e.J.LEAGUE2025横浜F・マリノス クラブ代表決定戦

Masami Yamagataさんの投稿
サン・アビリテーズにてポールウォーキング教室行います。 4月20日(日)10:00~12:00 定員:20名 申し込み方法:サン・アビリテーズ 028-656-1458 13日現在5名ですのでお友達お誘いでご参加ください。

中村 理さんの投稿
佐久ポールウォーキング協会より 雨の🌸花見散策で、 小雨(は決行)でしたが花冷えの中雨も感じない参加等、寒い寒いと言いながらの約1時間のPW散策でした^_^ 皆さん〜お疲れ様でした〜 桜🌸は写メの通り、レンギョウや水仙のイエローが鮮やかな「さくラさく小径」〜 信濃毎日新聞社の記者さんも参加し、皆さんを取材して居ました。 今日収穫の飴は〜ハート❤️〜の梅味でした〜ww

田村 芙美子さんの投稿
4/15 雨天のためPW活動は室内に変更。ところが教室を始めると窓の外は青空に☀ そこで、ウォーミングアップのあと 先日も雨のため室内お弁当花見になって行けなかった桜を観に御所が丘丹後ガ谷公園迄歩きました。かなり強い花散らしの雨風でしたので花びらは道路をピンクに染めるほど落ちていましたが風情があって皆満喫。公園の桜の木のしたでポールじゃんけんなどで遊びました。ドウダンツツジが見事でした。

Yoko Haraさんの投稿
鎌倉SUGATA4月より 毎月第1、第3水曜日 10時から11時30分 ノルディックスローウォーキング となります 前回は雨天の影響で中止🥲 本日☀️初レッスン 初体験者の方も参加 レディースDAYとなりました! 今年の桜はまだ楽しめる👍 葉桜が目立つ様になってきましたが、 とても気持ちの良いウォーキングとなりました! 次回は5月7日です 皆様のご参加お待ちしております♪ #ノルディックウォーキング #ノルディックスローウォーキング #フィンランド #SUGATA #鎌倉

佐藤 ヒロ子さんの投稿
#船橋ウォーキングソサイエティ #握力計測 #1km計測 #土曜日海老川コース 毎年毎に計測して  体力の変化を知ったら   手立てが大切ね 計測の合間に #お口の筋肉はパタカでトレーニング #骨盤底筋トレーニング 2025/4/19

森川 まことさんの投稿
本日は、手賀沼遊歩道開通した為歩いてみました。 湖畔を歩くのは気持ちがいいです。 八重桜、菜の花、ネモフィラなどが咲き誇り、コブハクチョウもゆったりとくつろいでいました。 来月は水元公園です。

遠藤 恵子さんの投稿
ありがたき幸せ♡ 7年越し♡ 【ポールウォーキング体験会】を某市民センターの市民講座で2講座開催させていただきます!! 館長にラブコールをいただいて7年目にしてようやく開催です!(この間、館長の移動がありなかなか実現に至らず) 他のセンターのご依頼は1講座、室内のみ、外歩きは行うことができなかったのですが今回は2講座の外歩きができます! ちなみにですね! ・1講座目は室内でポールウォーキング体験、ポールの長さの合わせ方から準備運動、歩き方、ポール筋トレなどをおこないます。 ・2講座目は室内で外歩き前にボールを使ってセルフフットケアー足はからだを支える土を体感していただいてから⇒ウォーキングコース(15分程度)をポールで歩きます!(雨天/室内) 今回の講座がご参加された皆様にとって、少しでもお役に立つことができれば幸いです🫶 発見 気づき 自信 楽しさ 喜び etc. 私にとってとても楽しみな講座です! 館長に感謝です🙏✨️✨️✨️✨️ #ポールウォーキング体験会 #フットセラピスト #セルフフットケア #足はからだを支える土台 #ポールウォーキング #歩行動作 #歩行能力 #歩けるからだ #姿勢改善 #バランス力 #転倒予防 #歩幅 #全身運動 #ゲンキクリエイターケイコ #ポールウォーキングマスターコーチプロ #市民講座 #出張講座 ※ポールウォーキングの写真は参考までに

新井 恵さんの投稿
#ポールウォーキング #桜の散歩道

来月以降の開催
中嶋  佳奈恵さんの投稿
私は月曜日の9時から 5月12.26日に担当します。 ストレッチとリズム体操で一日を スタートして行きましょう❣️ よろしくお願いします。

長岡智津子さんの投稿
写真1件

台灣健走杖運動推廣協會さんの投稿
【日式健走 Advance Coach 培訓課程】 日式健走進階教練培訓課程來了~ 兩日的課程,帶你深入學習健走杖運動的進階技巧,在理論與實作中不斷突破增進能力~ 想要規劃與教導一般民眾學習日式健走的你,趕緊來參加進階班! ❗此課程限定取得「日本健走杖健走Basic Coach」認證資格者參加❗ 課程日期:2025/5/17(六)、5/18(日) 9am~17pm 課程地點:大同運動中心 ‧滿10人開班,上限20位‧ 詳細課程辦法及規範請見報名表 ➡️https://forms.gle/5po6HgLUfUD4ZS4C6 期待課程中與你相見,共同學習❤️

 

2.PW関連学術ニュース
2-1)体幹と脚の相対位相も厳密には制御されていない
大阪大学工学部青井教授他は、既に「歩行中の両脚の逆位相関係が厳密には制御されていない」ことを明らかにしています(『2024年10月のニュース』ご参照)が、同様の方法で、「体幹と脚の相対位相も厳密には制御されていない」ことを明らかにしました。

【論文】
Haruma Furukawa 、Takahiro Arai 、Tetsuro Funato 、Shinya Aoi 、Toshio Aoyagi、「Bayesian estimation of trunk-leg coordination during walking using phase oscillator models」
Neuroscience Research、Available online 22 October 2024
https://doi.org/10.1016/j.neures.2024.10.002
古川 春馬 、新井 貴浩 、船戸 哲郎 、青井 伸也 、青柳 敏夫、「位相振動子モデルを用いた歩行中の体幹と脚の協調のベイズ推定」

**以下、同論文からの抜粋(翻訳はChromeによる)**
ハイライト
•歩行時の体幹のリズムは脚と2:1で同期しています。
•移動方向に乱れが生じた場合、胴体は前方に傾くことで姿勢を維持しようとします。
•体幹と脚の相対位相は厳密に制御されるのではなく、断続的に制御されます。

要約
ヒトの歩行においては、脚と他の身体部位が協調して適切な位相関係を持つリズムを生み出しています。パーキンソン病などの歩行障害のリハビリテーションの観点からは、歩行リズムの制御機構を理解することが非常に重要です。先行研究では、歩行中の脚の動きを結合位相振動子に還元することで、歩行中の両脚の逆位相関係が厳密に制御されているわけではないことが示されました。しかし、脚以外の制御機構については未解明な点が多く残されています。特に、体幹は脚と連動して動き、脚の上部に位置し、人体の質量の半分以上を占めるため、歩行の安定化に重要な役割を果たしていると考えられます。本研究では、結合位相振動子モデルとベイズ推定を用いて、矢状面における脚と体幹の協調制御機構を明らかにすることを目的とします。その結果、脚と体幹の協調、そして脚間協調が厳密に制御されているわけではないことが明らかになりました。

1.はじめに
体幹の制御は、安定した歩行を実現するために極めて重要です。体幹は体重の50%以上を占め(Dempster, 1955、Plagenhoef et al., 1983)、わずかな体幹の傾きでも各関節に大きなモーメントが生じる可能性があります(Preece and Alghamdi, 2021)。さらに、ヒトは四足動物と比較して支持基底面(BoS)が狭いため、重心がBoSの周囲から突出する傾向があります(Winter et al., 1990)。さらに、歩行中の重心は脚よりも高い位置にあるため、歩行は機械的に不安定になります。

歩行中の脚の制御については、多くの研究者が研究を行ってきました ( Bauby and Kuo, 2000 , Collins and Kuo, 2013 , Arvin et al., 2016 )。これらの研究は、機械システムの安定性という観点から頻繁に議論されています。前額面における安定性は歩幅と強く関連していることが報告されています ( Bruijn and van Dieën, 2018 )。また、矢状面における脚の運動は、前額面における脚の運動よりも安定しています ( Bauby and Kuo, 2000 , McGeer, 1990 )。
本研究は、前述の機械的な安定性ではなく、歩行リズムの安定性に焦点を当てています。歩行においては、体の各部位がそれぞれ独自のリズムを持っています。これらのリズムは相互に作用し、適切な位相関係を作り出します。例えば、右足と左足は交互に動き(Alexander, 2002)、腕はそれに合わせて動きます。このリズム的な協調性は、健康な若者では通常安定していますが、高齢者やパーキンソン病患者では乱れることがあります(Plotnik et al., 2007 , 2008)。歩行障害のある患者を支援するためには、リズム的な協調性のメカニズムを解明することが有用である可能性があります。

歩行リズムの安定性に関する研究は、その重要性にもかかわらずほとんど行われていません。これまでの研究では、左右の脚の逆位相関係が歩行を安定させるために重要であるが、厳密ではないことが示唆されています(Arai et al., 2024)。つまり、脚間の協調は厳密に制御されていません。体幹も脚と連動して動いており、体幹と脚の協調は歩行の安定化に重要な役割を果たしているはずです。しかし、歩行中の体幹と脚の協調については、まだほとんど明らかにされていません。

本研究の目的は、歩行中の体幹と脚の矢状面における協調運動のメカニズムをリズム制御の観点から明らかにすることです。これを実現するために、非線形力学システムとベイズ推定法を使用します。位相縮減理論 ( Kuramoto, 1984、Winfree, 1980、Nakao, 2016 ) に基づいて、脚と体幹のリズム運動を結合位相振動子でモデル化します。次に、ベイズ推定法 ( Ota and Aoyagi, 2014 ) を使用して、時系列データからモデルパラメータを同定します。

図 1。(a) 本研究で提案する 2 つの位相振動子結合モデル。歩行中、脚と体幹は単一のリズムを持つものとし、それぞれに 1 つの振動子が割り当てられている。2 つの位相振動子は、外部摂動や確率的変動の影響を受ける。 (b)相対位相ψの自発的ダイナミクスを支配する関数f ( ψ ) の形状とその制御機構との対応関係。ψがψ = ψ cに固定されていると仮定する。f ( ψ ) が左側に示すようにψ c付近で平坦でない場合、 ψのわずかなシフトでも敏感に補正される。一方、f ( ψ ) が右側に示すようにψ = ψ c付近で平坦な区間を持つ場合、 ψがある値にシフトするまでは積極的に制御は行われない。

 

2-2)「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を⽤いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が⽰唆
以下、4月17日付京都大学iPS細胞研究所(CiRA)のニュースリリースからの抜粋です。
***
京都大学iPS細胞研究所は、京都大学医学部附属病院と連携し、「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞注1)を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験(jRCT2090220384、UMIN000033564)」を実施しました。2018年6月4日付で独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医師主導治験として治験計画届を提出し、2018年8月1日より治験を開始しました(CiRAニュース 2018年8月1日)。その研究成果がNature 誌2025年4月16日号に掲載されました。

7名のパーキンソン病患者さんを対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻注2)に両側移植しました。主要評価項目は安全性および有害事象の発生で、副次評価項目として運動症状の変化およびドパミン産生を24カ月間にわたり観察しました。その結果、重篤な有害事象は発生しませんでした。iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示されました。これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆されました。

1. 背景
パーキンソン病では、中脳黒質注2)のドパミン神経細胞が減少し、それによって動作緩慢、筋強剛、安静時振戦を特徴とする運動症候群を発症します。薬物療法は、初期の段階では運動症状を効果的に緩和しますが、長期に経過すると運動合併症や薬剤誘発性ジスキネジア(不随意運動)など対応が難しい問題が生じます。そのため、失われたドパミン神経細胞を補充する細胞治療が代替治療法として検討されてきました。欧米では、ヒト中絶胎児の脳を移植する治験が行われてきましたが、倫理的問題や安定した供給の困難さが指摘されてきました。CiRA髙橋淳教授らの研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導する方法を開発し(CiRAニュース 2014年3月7日)、サルのパーキンソン病モデルの脳内でドパミンを産生し、運動症状を改善することを確認してきました(CiRAニュース 2017年8月31日)。

2. 研究手法・成果
50~69歳の7名のパーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植しました。主要評価項目は安全性および有害事象の発生で、副次評価項目として運動症状の変化およびドパミン産生を24カ月間にわたり観察しました。その結果、重篤な有害事象は発生しませんでした。MRI注3)による評価では、移植組織の異常増殖は認められませんでした。また、有効性評価の対象となった6名の患者のうち、4名が「国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS)パートIII注4)」のOFFスコア注5)において改善を示しました。さらに、18F-DOPA PET注6)では、被殻のドパミン神経の活動が増加していました(下図:移植後に新たに観察されたドパミン神経の活動を矢印で示す)。以上から、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞が生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示されました。これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆されました。
3. 波及効果、今後の予定
この治療を一日も早く世界中の患者さんにお届けするために、実用化に向けて取り組んでいます。海外での実用化を目指した治験も並行して進行しています。⽇本国内では、国による承認申請に向けて製薬会社が準備を進めています。海外での実⽤化も⽬指し、⽶国カリフォルニア⼤学サンディエゴ校では2023年11⽉から医師主導治験が開始されています(CiRAニュース 2023年12月26日)。

5. 論文名と著者
・論文名:
Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease
(パーキンソン病に対するiPS細胞由来ドパミン神経細胞治療の第I/II相試験)
doi: 10.1038/s41586-025-08700-0″>doi: 10.1038/s41586-025-08700-0
・ジャーナル名:Nature
・著者: 澤本 伸克ほか、

6. 用語説明
注1)ドパミン神経前駆細胞
ドパミンは神経伝達物質の一つで、ドパミン神経細胞の中で作られます。ドパミン神経前駆細胞は、ドパミン神経細胞に分化する前の細胞です。パーキンソン病モデル動物を用いた研究から、ドパミン神経前駆細胞を移植することによって脳内に成熟ドパミン神経細胞が効率的に生着することが明らかになっています。
注2)被殻・中脳黒質
いずれも脳の部位の名称です。パーキンソン病では、中脳黒質のドパミン神経細胞が減少し、被殻へのドパミン供給が不足することで、運動症状が引き起こされます。
注3)MRI(磁気共鳴画像法)
強い磁場と電波を利用して体内の詳細な画像を取得する医療画像技術です。脳や脊髄などを高精細に画像化することで、診断に役立てます。
注4)国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS)パートIII
パーキンソン病の運動症状を客観的に評価する臨床スケールです。医師が動作を観察し、各項目をスコア化して症状の重症度や治療効果を評価します。
注5)OFFスコア
それぞれ、薬剤治療の効果がない時に実施した運動症状の評価です。パーキンソン病に対する細胞治療の治験で、一般的に行われている評価法です。
注6)18F-DOPA PET(ポジトロン断層法)
放射性薬剤を用いて、ドパミン神経の機能を評価する医療画像技術です。18F-DOPAの取り込み量を測定することでドパミン神経の活動を可視化できます。

関連情報
a) Nature誌2025年4月16日号には、本論文の他に、関連した次のようなニュース、論文、解説記事も掲載されています。
Smriti Mallapaty によるニュース記事
‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials
Studies show the therapy is safe, but bigger trials are needed to prove its efficacy.
Tabar, V. et al.による論文
Phase I trial of hES cell-derived dopaminergic neurons for Parkinson’s disease
(https://doi.org/10.1038/s41586-025-08845-y (2025)).
Hideyuki Okanoによる解説記事
Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease
Transplanting dopamine-releasing neurons into the brain is a promising regenerative therapy for Parkinson’s disease. Two clinical trials show that it is safe, but more evidence is needed to prove its effectiveness.

b) また,このところiPS細胞を使った研究成果が続々と発表されています。例えば、
(1) 以下は、本件以外のCiRAからの本年4月中の発表です。
2025年4月15日:iPS細胞由来膵島細胞シート移植に関する治験 1例目移植実施について
2025年4月10日:翻訳開始因子EIF3Dはシグナル伝達経路のバランスを調整することで多能性幹細胞の自己複製を支える
2025年4月4日:日若年性認知症を来す前頭側頭葉変性症に対する治療薬候補と治療標的分子のiPS創薬による同定
2025年4月3日:慢性腎臓病(CKD)に対する細胞治療の効果をマウスで確認 ―数年以内の臨床試験開始を目指す―
(2) 大阪大学大学院医学系研究科・医学部からの発表です。
2025年1月27日:iPS細胞から作製した心筋細胞シートの医師主導治験の実施~重症心筋症の治療に向けて~
(注)関連ニュース:iPS細胞使った心臓病治療 大阪大学発ベンチャー企業が承認申請(2025年4月8日NHK NEWS WEB)

 

2-3)岐阜大学医学部下畑先生の最新医学情報(2025年4月)
・血液検査で将来のアルツハイマー病リスクがわかる時代へ:アミロイドβやタウと独立した新たなバイオマーカー「YWHAG:NPTX2比」の発見
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月3日のFB投稿です**
アルツハイマー病(AD)は,アミロイドβやタウタンパクの蓄積を特徴とする神経変性疾患ですが,認知機能の低下の進行速度には個人差が非常に大きいことが知られています.また脳内にアミロイドβやタウが蓄積していても,認知機能が保たれている人と,急速に悪化してしまう人が存在するのはなぜか・・・この問いは,これまでのバイオマーカー研究では十分に説明されてきませんでした.
その問いに正面から取り組んだ研究が,最新号のNature Medicine誌に掲載されています.米国マウントサイナイ医科大学やスタンフォード大学などの国際研究グループが,6つの大規模コホート(Stanford,Knight-ADRC,ADNI,DIAN,BioFINDER2,Kuopio)から集めた3397名分の脳脊髄液を対象に,網羅的なプロテオーム解析を行ったものです.その結果,「シナプスに関わるタンパク質群が,アミロイドβやタウとは独立して,認知機能障害の重症度と最も強く関連していること」を明らかにしました.特に注目されたのが,14-3-3タンパク質の一種であるYWHAGと,シナプス可塑性に関与するNPTX2との比率,すなわち「YWHAG:NPTX2比」です.この比率は,pTau181:Aβ42比に比べて,認知機能障害のばらつきをさらに27%多く説明し(図1左),タウPET画像では11%,またニューロフィラメントやGAP-43,ニューログラニンといったバイオマーカーでは28%多く説明できる能力を持っていました.
ちなみにYWHAGは14-3-3ファミリーのγアイソフォームであり,シナプス機能や細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たしているようです.この14-3-3ファミリーは,プリオン病の診断に用いられる脳脊髄液中の「14-3-3タンパク」としても知られていますが,通常の臨床検査では複数のアイソフォームをまとめて(pan 14-3-3 antibodyで)検出するのに対し,本研究ではYWHAG(γ)を特異的かつ定量的に測定している点が大きく異なっています.つまり,プリオン病では14-3-3タンパク全体を調べているのに対し,より特定のタンパクに焦点を当てたバイオマーカーと言えます.
★訂正です:三條伸夫先生,佐藤克也先生より,プリオン病の14-3-3蛋白はγアイソフォームを測定していることをご教示いただきました.
図2では,このYWHAG:NPTX2比が,健常者,軽度認知障害(MCI),軽度認知症,中等~重度認知症とステージが進むにつれて段階的に上昇する様子が,異なるコホートでも一貫して示されています(図1右).また,この比率は,加齢に伴って徐々に上昇するだけでなく,常染色体優性ADの保因者においては,症状発現の約20年前からすでに上昇していることも示されており,発症前の予測指標としての有用性も期待されます(図2).健常者,孤発性AD,遺伝性ADのYWHAG:NPTX2比の経時変化を示したものが図3です.
さらに,この比率は,認知機能が正常なA+T1+(アミロイドβとタウ病理がすでに進行しているが,まだ認知機能が保たれているか初期段階)の人が軽度認知障害に進行するリスクや,MCIから認知症へ進行するリスクの予測にも有効でした.15年間にわたる追跡研究では,YWHAG:NPTX2が1標準偏差上昇するごとに,健常者がMCIへと進行するリスクが約3倍,MCIの人が認知症に進行するリスクが約2.2倍に上昇することが明らかとなりました.これらの予測力は,年齢やAPOE4遺伝子型,性別,および他のCSFバイオマーカーの影響を調整した上でも有意でした.
さらに注目すべきは,この研究が脳脊髄液にとどまらず,血液からでも同様の予測が可能であることを示した点です.著者らは13401検体の血漿プロテオーム解析を行い,「血漿シグネチャー(plasma signature)」と呼ばれるタンパク質群(図4左)のパターンを構築しました.機械学習を用いて開発されたタンパクの組み合わせによる指標です.この血漿シグネチャーは,脳脊髄液 YWHAG:NPTX2比の変化と部分的に一致し,脳脊髄液を用いなくても,ADによる認知機能障害のリスクの層別化が可能であるというものです.健常者がMCI,あるいは認知症に進行する予測に有用であり,特に高値群では将来の認知症発症リスクが最大で7倍以上に上ることも示しました(図4右).
本研究は,脳脊髄液バイオマーカーYWHAG:NPTX2比が,ADにおける認知機能の保たれやすさ(resilience)と進行リスクを高精度に区別できることを示しました.また,血液中のプロテオーム情報によって非侵襲的に同様の情報を得られる可能性も提示しており,将来の認知症予防や治療介入の選定に向けて大きな一歩となる研究です.一方で,近い未来,このようなバイオマーカーが日常臨床に実装されることを考えて,このような認知症の新技術にともなう臨床倫理的問題を考えていく必要性を感じます.
Oh HS, et al. A cerebrospinal fluid synaptic protein biomarker for prediction of cognitive resilience versus decline in Alzheimer’s disease. Nat Med. 2025 Mar 31.(https://www.nature.com/articles/s41591-025-03565-2)

・帯状疱疹ワクチンで認知症リスクが20%減少した!しかも効果には明らかな性差があった
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月4日のFB投稿です**
帯状疱疹の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)をはじめとするヘルペスウイルスが,認知症の発症に関与している可能性が指摘されています(当科.森らの総説を参照;https://www.jstage.jst.go.jp/…/65_cn-002047/_pdf/-char/ja).これに関連して,ワクチンが認知症の発症リスクを抑えるのではないかという議論が活発になっています.そうした中,スタンフォード大学の研究チームは,Nature誌に注目すべき論文を発表しました.
この研究の特徴は,従来の観察研究と異なり,因果関係をより信頼性高く推定する「自然実験」正確には回帰不連続デザイン(regression discontinuity design)を用いている点です.これは,ある日時(今回の場合は生年月日)を境にして介入の有無が変わる制度上の仕組みを利用して,比較的似た人同士の間で介入の効果を見積もる手法です.具体的には,イギリスにおいて帯状疱疹ワクチンの公的接種制度(Zostavax)の導入が2013年に開始されました.その接種対象年齢が「1933年9月2日以降に生まれた人」と定められていたため,その前後に生まれた人たちは生活背景がほぼ同じであるにもかかわらず,ワクチン接種の有無だけが異なる集団として扱えるわけです.
最も注目すべき結果は図1に示されています.これは実際に帯状疱疹ワクチンを接種した人と接種していない人とを比較したものであり,ワクチン接種によって7年間の認知症新規診断率が,17.5%→14.0%と3.5%の減少,すなわち相対リスクでは3.5/17.5となり20.0%低下していました(95%信頼区間:6.5〜33.4,P=0.019).この効果は,インフルエンザなど他のワクチン接種や併存疾患,健康診断の頻度などの要因では説明できず,帯状疱疹ワクチン固有の影響と考えられます.
一方で図2は,単純に「ワクチンを接種する資格を得たこと」による影響(つまりintension to treat;ITT解析)を示しています.こちらでも認知症新規診断率は1.3%の減少,相対リスクでは8.5%低下し(P=0.022),かつ効果の持続性も確認されました.よって政策的に対象者に接種機会を提供するだけでも,認知症発症率に有意な影響があることが示されたということのようです.
さらに驚いたのは,性差による効果の違いが示されたことです.上述の図2を性別ごとに検討すると,図3左に示されるように,女性ではワクチン接種の対象になっただけで認知症リスクが有意に低下しており(−2.9%,P=0.0013),効果の持続性も確認されました.これに対して,図3右に示される男性では,効果はほとんど認めれませんでした(P=0.93).この性差は,ワクチンによる免疫反応が女性のほうが強い傾向にあること,あるいは非特異的免疫効果(trained immunity)と呼ばれるメカニズムの関与が推測されています.これは,ワクチンが特定の病原体に対する免疫だけでなく,自然免疫を長期的に強化し,さまざまな疾患に対して身体を守るような広い効果を持つ現象を指します.COVID-19の研究で,ウイルスやワクチンに対する反応の性別による違いが,免疫に対する性ホルモンの影響で説明できることがかなり分かってきましたが,ここでも同様に性差が大きな影響を及ぼしているようです.
注意点ですが,今回の研究の対象となったのは生ワクチン(Zostavax)です.現在イギリスでは,より新しい不活化ワクチン(Shingrix)に切り替えられているため,今後はこの新しいワクチンで同様の効果が確認されるかが注目されます.
帯状疱疹ワクチンは従来,神経痛や帯状疱疹後合併症の予防を目的として接種されてきましたが,この研究結果は,ワクチンが「認知症の予防」へと応用可能であることを強く示唆しています.女性は免疫が強く働くので副反応が出るリスクもあるのかと思いますが,やはりこの論文を読むと接種を検討したほうが良いと思います.あとは接種の年齢ですが,この試験では70歳〜79歳であったようです.もっと早く接種すると結果がより顕著になるのかも気になるところです.
Eyting M, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025 Apr 2. https://www.nature.com/articles/s41586-025-08800-x

・加齢による髄膜リンパ管の機能低下が,免疫細胞ミクログリアを介して認知機能障害をもたらすというパラダイムシフト
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月6日のFB投稿です**
髄膜に「髄膜リンパ管」があることが最近,明らかになりました.脳脊髄液に含まれる老廃物を排出する重要な通路として作用しますが,この機能が低下すると何が起こるのか?Cell誌に掲載されたワシントン大学セントルイス校等の研究グループは,髄膜リンパ管はミクログリアと協調しながら,神経の興奮と抑制のバランス(E/Iバランス)を保ち,記憶機能に大きな影響を与えていることを明らかにしました.言い換えると,髄膜リンパ管の機能障害は大脳皮質のE/Iバランスを崩し,記憶障害を引き起こすことをマウスモデルで示しました.この変化はミクログリア活性化を介して,IL-6が過剰に発現することで生じるようです.
研究では,まずマウスの深頸リンパ節への髄膜リンパ管の流入路を外科的に結紮し,その後の行動や脳の神経活動を詳細に調べました.具体的には,手術から4週後,マウスは新奇物体認識テストで記憶形成が困難になり,Y字型の水迷路テストでも空間記憶が低下していました.電気生理学的には前頭前野(mPFC)の錐体細胞の抑制性シナプス電流(mIPSC)と興奮性電流(mEPSC)を測定し,mIPSCの頻度が約20%低下しており,E/Iバランスが崩れていることを示しました.一方,mEPSCには変化を認めませんでした.模式図に示されているように以下の変化が生じるようです.
髄膜リンパ管機能障害→ミクログリア活性化→IL-6過剰発現→抑制性シナプスの減少→記憶障害などの行動異常
あとの実験は,上記が正しいことを確認するため,ミクログリアをCSF1R阻害薬PLX5622や遺伝子改変によって除去したところ,リンパ管機能障害に伴うシナプス異常や記憶障害は消失しました.またIL-6が抑制性シナプスの減少に関与していることを,遺伝子欠損マウスや薬理学的実験で確認しています.IL-6にはIL-6受容体の膜結合型(古典的シグナル伝達)と可溶性型(sIL-6R;トランスシグナル伝達)がありますが,どちらの経路も関与しているようです.
興味深いのは24か月齢の老化マウスの検討で,前頭前野のmIPSCとmEPSCの両方が低下していました.加齢によるリンパ管機能の低下が原因と考えられたため,リンパ管の新生や成長を促進する成長因子であるVEGF-CをAAVベクターに組み込み髄腔内投与で発現させたところ,抑制性シナプスの機能と記憶力が回復しました.IL-6過剰発現も抑制されました.
いままで「髄膜リンパ管がミクログリアを介して,神経回路のバランスを維持している」という視点はなく,認知症の病態の考え方にパラダイムシフトが生じる可能性があります.つまり老化に伴う認知機能低下の新たな原因として髄膜リンパ管の機能障害が注目され,これを標的とした治療が行われる可能性があります.
Kim K, et al. Meningeal lymphatics-microglia axis regulates synaptic physiology. Cell. 2025 Mar 14:S0092-8674(25)00210-7.(doi.org/10.1016/j.cell.2025.02.022)

・グリンパティックシステムを可視化する―血管周囲造影効果(PVE)パターンという新たな画像サイン
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月10日のFB投稿です**
図1はJ Neuroradiol誌にフランスから発表された総説からのものです.近年注目されている血管周囲造影効果(perivascular enhancement: PVE)パターンについて豊富な画像とともに詳細に解説しています.まず図の中央には,T1強調造影MRIにおける典型的なPVEがイラスト化されています.大脳白質に多数の点状および線状の造影効果が広がっていますが,これらはPVS(血管周囲腔;図2)に沿って描出されているものです.つまりこの「点と線の造影」に着目したものがPVEです.
この図の左側には,「Characteristic causal diseases」として,PVEが比較的一貫して認められる疾患群が並んでいます.1つ目がGFAPアストロサイトパチーであり,GFAPαに対する自己抗体が検出される自己免疫性脳炎で,血液脳関門が破綻するため,造影画像では線状(放射状),点状のPVEが描出されることが有名です.
2つ目はLevamisole leukoencephalopathyです.米国などで流通するコカインには動物用駆虫薬レバミゾールが混入しているそうで,その摂取によって脱髄と血管周囲炎が起こり,中毒性白質脳症をきたすのだそうです.点状から結節状のPVEが認められます.
3つ目のCD8脳炎は,HIV感染者に認めるまれな脳炎で,血管周囲へのCD8陽性T細胞の浸潤が特徴的です.PVEは広範かつ左右対称に出現するようです.
4つ目のCLIPPERS / SLIPPERSは,中枢神経の慢性リンパ球性炎症を示す疾患で,前者は橋・小脳領域,後者は大脳半球に限局します(Cはchronic,Sはsupratentorial).いずれもPVSに沿った点状・線状の造影が特徴的で,PVEの典型ともいえる疾患です.
図の右側には,「Potential causal diseases」として,PVEが時に出現する疾患群が配置されています.1段目には感染症や腫瘍が多く,たとえばウイルス性脳炎,転移性脳腫瘍,膠芽腫,リンパ腫,ICANS(CAR-T細胞療法後の神経毒性症候群:Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome)が並んでいます.2段目は自己免疫性・脱髄性疾患が並び,多発性硬化症,急性散在性脳脊髄炎,NMOSD,MOG抗体関連疾患が含まれます.また放射線治療後に生じるPVEは血管内皮障害が原因と考えられています.3段目以降は多様な病態が含まれ,PML-IRIS(免疫再構築症候群を伴う進行性多巣性白質脳症)や神経サルコイドーシス,神経ベーチェット病,脳血管炎などで,これらはいずれもPVSへの炎症性細胞浸潤が関与します.FUS(Focused Ultrasound)治療後やPRES(可逆性後部白質脳症)では,局所的な血液脳関門の破綻により,造影剤がPVSに漏出して PVEが観察されます.そのほか,脳脂肪塞栓症(CFE),Erdheim-Chester病(ECD),Susac症候群,SLEでもPVEが出現することが報告されています.最後に図3は画像所見のパターンと原因疾患のまとめです.
今後,神経放射線診断においてPVEを見逃さないことが重要だと述べています.この図は臨床現場においてとても役に立つものと考えられます.また今後,グリンパティックシステムが解明されるにつれて,これら疾患ごとの画像所見が意味することがより明らかになるのではないかと思います.とても楽しみです.論文はオープンアクセスですのでぜひご一読ください.
Babin M, et al. Perivascular enhancement pattern: Identification, diagnostic spectrum and practical approach – A pictorial review. Journal of Neuroradiology. 2025;52:101242. (doi.org/10.1016/j.neurad.2025.101242)

・驚愕の方法による「ヒト脳ミトコンドリア地図」の完成!―進化的に新しい領域はミトコンドリアが高性能―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月11日のFB投稿です**
私たちの脳は膨大なエネルギーを消費しながら活動しています.このエネルギーは主にミトコンドリアによる酸化的リン酸化(OXPHOS)によって供給されています.このためミトコンドリアの機能は神経活動や神経疾患にも深く関わっています.今回,コロンビア大学などの国際共同研究グループから,ヒト脳のミトコンドリア機能の分布を初めて可視化した研究がNature誌に報告されました.
著者らは,死後8時間以内に摘出された54歳男性の右大脳半球の約2cm厚の冠状断スライスを−80℃で保存し,これをコンピュータ制御の加工機械で3mm立方体のボクセル,計703個の脳領域に切り分けました!(図上).この方法で,人の手では不可能な均一・高精度・再現性のある切り出しが可能になったそうです.またこの空間分解能はMRIのボクセルサイズと一致しており,解剖学的構造とミトコンドリア機能を対応づけることが可能です.そして各ボクセルの試料から,クエン酸シンターゼ活性やミトコンドリアDNA量,およびOXPHOS酵素(複合体I,II,IV)活性が測定され,それらの結果から組織全体としての呼吸能力(TRC;Tissue Respiratory Capacity),ミトコンドリア密度(MitoD;Mitochondrial Density),ミトコンドリア1個あたりの効率(MRC;Mitochondrial Respiratory Capacity)を算出しました.最終的にMRI空間にマッピングして,脳全体の「ミトコンドリア地図」を完成させました.本当に力仕事です.
この結果,脳の部位によってミトコンドリアの密度と性能に顕著な違いがあることが示されました.まず,灰白質は白質よりも50%以上もミトコンドリア密度が高く(図下.MitoD),呼吸能力も高いことが分かりました(図下.TRC).さらに,TRCをMitoDで割ったMRCを算出すると,ミトコンドリア1個当たりの「性能」も評価できますが,灰白質の中でも前頭葉や側頭葉といった進化的に新しい領域では,とくに「性能」が高いことが分かりました.後頭葉は進化的にやや古い皮質領域であるためか,前頭葉皮質ほど高性能ではありませんでしたが,それでも比較的高い領域でした(MitoDやTRCは高いことが分かりました).一方,白質はミトコンドリア密度が低く,1個あたりの効率も低いことから,エネルギー代謝の面ではあまり活発ではないことが分かりました.被殻はMitoD,TRC,MRCとも高いのに対し,淡蒼球では低い(非代謝的)ことも分かりました.
また単一核のRNAシーケンス(snRNA-seq)を用いた解析では,ミトコンドリア関連遺伝子の発現が細胞種ごとに異なっており,血管内皮細胞ではOXPHOS遺伝子の発現が最も高く,抑制性ニューロンでは最も低いことが示されました.
上記の結果は,臨床的にも示唆に富んでいます.血管構造とは独立したこのエネルギー分布の特徴は,神経疾患で観察される脆弱性パターンと一致する可能性があります.たとえばミトコンドリア脳筋症は,後頭葉・頭頂葉・側頭葉などの皮質の脳卒中様エピソードを呈しますが(MELAS),これらの部位はミトコンドリア密度や性能が高く,その「代謝的脆弱性」がMELASの病変好発部位を説明しうると考えられます.今回の研究によって得られた「ミトコンドリア地図」は,このような疾患特異的病変の背景を理解するうえでも重要な基盤となるものと考えられます.
Mosharov EV, et al. A human brain map of mitochondrial respiratory capacity and diversity. Nature. 2025. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08740-6

・医師介助自殺に対するイタリア神経学会の見解 ―我が国が参考にすべきこと―
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月13日のFB投稿です**
Neurological Sciences誌に,神経疾患患者における医師介助(幇助)自殺(Physician-Assisted Suicide;PAS)について,イタリア神経学会が包括的に論じたポジションペーパーが発表されました.非常に重要な論文だと思いました.
まず背景ですが,イタリアでは2019年に以下の4条件を満たした場合,医師がPASによる刑罰を免れる(法的例外となる)という憲法裁判所判決がなされました.
1.患者は回復不能な疾患に苦しんでいること
2.身体的または精神的に耐え難い苦痛があること
3.生命維持治療によって生存していること
4.自律的かつ明確な意思決定能力を有すること
つまり対象は「回復不能な疾患に苦しみ,生命維持治療に依存して延命している,明確な意思決定能力を有する18歳以上の患者」に限定されます.ところが,この制度の運用は全国で一貫しておらず,倫理委員会や医師による判断に強く依存しているのだそうです.とくに神経疾患は4の自己決定能力の低下を呈しうるため判断が難しいわけです.
この状況下においてイタリア神経学会は以下の6項目の提言を行いました.日本でも将来PASを検討する場合,非常に参考になる内容が含まれています.
1.神経疾患患者に対する緩和ケアの提供を最優先課題とすること.
2.脳神経内科医に対し,緩和ケアおよび終末期ケアのトレーニングを推奨すること.
3.緩和ケアが適切に行われたにもかかわらず,なおPASを希望する患者に対しては,その意思を尊重し,適切な制度的対応を検討すべきであること.
4.PASが制度化された場合には濫用を防ぐために,明確な実施基準とモニタリング体制を整備すること.
5.神経疾患患者においては,認知機能障害や精神症状により意思決定能力が揺らぐ可能性があるため,標準化された能力評価ツールの開発と活用が必要であること.
6.将来的な法制度の議論においては,「すべり坂(slippery slope)*」の懸念に留意しつつも,過度な萎縮を避け,倫理的に妥当な運用を目指すべきであること.
つまりイタリア神経学会は,PASを単独で制度化するのではなく,緩和ケアが十分に提供されたうえで,なおかつ厳密な条件のもとでのみ,限定的に合法化されるべきだとする立場を示しています.さらに緩和ケアの普及と並行して,神経疾患患者さんが抱える「トータルペイン」に対して共感的に対応しつつ,医師個人の信念や社会的価値観も尊重する形で制度化を目指すべきだと述べています.非常に納得できる内容で,将来,日本でPASを議論する場合,議論の土台になりうる論文だと思います.今後,日本で求められることを以下の4点ではないかと思います.
① 神経疾患に対する緩和ケアの全国的な整備
② 神経疾患の緩和ケアや倫理に関する教育の充実
③ 認知機能の低下前の段階で,協働意思決定を開始する文化の醸成
④ 法的枠組みの整備と,市民を含めた社会全体での議論
とくに④は,日本ではPAS,尊厳死,安楽死,治療のwithdraw/withholdといった概念が混在しており,多くの人がそれぞれの定義を理解できていない状況だと思います.市民が共に議論できる環境を整えることが求められます.
Pucci E, et al. Neurology and physician-assisted suicide: position of the Italian society of neurology. Neurol Sci. 2025. https://doi.org/10.1007/s10072-025-08038-5
用語の解説:*「すべり坂」とはある行為を一度認めてしまうと,想定していた範囲を超えて,徐々により広い・極端なケースにまで拡大してしまうという懸念を示す倫理・法的な概念です.PASの場合は「特定の条件を満たす患者に限って認める」と制度化しても,やがて条件が緩和され,認知症・神経難病・精神疾患・高齢者などのケースにも拡大されるという懸念を指します.事実,オランダでは「すべり坂は起きた」と言われています.
図はこの問題を勉強するうえで有用な3冊です.
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・なぜALSで眼球運動は保たれるのか?変性にレジリエンスをもつ神経細胞に学ぶ治療のヒント
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月15日のFB投稿です**
ALSにおけるCharcotの陰性4徴候のひとつに,眼球運動障害が生じにくいという点があります.これは多くの医学生も知っている基本的な知識であり,私もALSでは,病状がかなり進行するまで眼球運動が保たれると教えています.しかし,なぜこのような現象が生じるのかと問われると説明ができませんでした.ところが最近,Brain誌のオピニオン欄にミラノ大学等から報告された一本の論文に,その謎を考える大きな示唆を与えられ,思わずハッとさせられました.
それは神経ごとに「抵抗性(内因性レジリエンス)」があるという仮説です.まず図1では,運動ニューロンの抵抗性が,細胞体の大きさ,軸索の長さ,分岐の多さ,活動頻度などの構造的・機能的特徴と関連している可能性を示しています.急速易疲労性運動ニューロン(ジャンプや短距離走など短時間・高出力の動作に関与する)は,太くて長い軸索を持ち,広範な筋肉群に分岐しており,エネルギー需要が高く,小胞体(ER)ストレスへの感受性も高いため,ALSにおいて最も早期に変性します.これに対し緩徐運動ニューロン(姿勢保持や長距離走など持続的運動に関与する)や動眼神経は,軸索が細く短く,分岐も少ないため,エネルギー負荷が低く,より高いレジリエンスを示します.つまり,神経ごとの構造的・機能的な違いが選択的な神経変性に反映されるという仮説です.
図2Aでは3種類の運動ニューロンについて,各種分子の発現レベルとERストレスの程度が示されており,ALSに対して強いか弱いかが一目でわかります.それ以降は過去の論文報告のまとめで,図2Bでは,動眼神経で高発現しているSYT13(Synaptotagmin 13)遺伝子を急速易疲労性運動ニューロンに導入することで,神経細胞の変性を防げることがマウスモデルで示されたことを表しています.図2Cは抵抗性のある動眼神経ニューロンにMMP(matrix metalloprotease)を加えてもなお抵抗性を示すことを表しています.また図2Dでは,培養運動ニューロンに対する興奮性毒性に対し,CYPIN(別名GDA)を培地に添加することで部分的に保護できることを示しています.さらに,図2Eでは培養運動ニューロンにおいてSYT13が片方のコピーしかないと,タンパク凝集やシナプス消失などALSに類似した表現型が再現されることを表しています.
ALSの病態にはグリア細胞や免疫細胞など複数の細胞種が関与しますが,そうは言っても神経細胞固有の性質が変性に大きく影響するという考えです.今後,単一細胞レベルや空間トランスクリプトーム解析などの技術を駆使して,各タイプごとの髄運動ニューロンの分子特性がさらに解明することが期待されます.そしてレジリエンスを持つ神経細胞の分子特性が解明されれば,その特徴をレジリエンスの弱い神経細胞に導入するという新しい治療につながると考えられます.
Corti S, Hedlund E. Intrinsic neuronal resilience as a tool for therapeutic discovery. Brain. 2025;148(4):1058–1061. https://doi.org/10.1093/brain/awaf010

・血液からタウ病理を正確に捉えるアルツハイマー病診断の新時代の到来 ― 準備はできているか?
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月16日のFB投稿です**
アルツハイマー病(AD)の診断や治療方針の決定に,脳内におけるアミロイドβおよびタウ蛋白の蓄積の評価が有用です.しかしその評価にはこれまでPET検査や脳脊髄液検査が必要であるため,日常診療への応用には限界がありました.しかしNature Medicine誌に相次いで掲載された2本の国際共同研究は,血液検査によりタウ蛋白の蓄積を高精度に評価できるというもので,今後の診療に大きなインパクトを及ぼすと予想されます.
第一の研究は,米国ワシントン大学のグループによるものです.この研究では,脳内の不溶性タウ凝集体に特異的な血漿バイオマーカーとして,eMTBR-tau243(endogenously cleaved microtubule-binding region tau243)を開発しました.これはタウ蛋白の微小管結合領域のうち,243〜256番残基に相当する断片であり,神経原線維変化(神経細胞に蓄積するタウ)から遊離したフラグメントと考えられるそうです.検討はスウェーデンとアメリカのコホート(739名および55名)を含む複数の独立した集団で実施されました.この結果,eMTBR-tau243は,アミロイドβ陽性の軽度認知障害(MCI+)およびアルツハイマー型認知症(AD+)において有意に上昇し,非AD性タウオパチー(PSP,CBS,FTDなど)では上昇しないという高い特異性を示しました(図1).またeMTBR-tau243はMCI+およびAD+において顕著に上昇しているのに対し,アミロイド陽性ながら認知機能が正常なCU+(Cognitively Unimpaired / Aβ陽性)では上昇していないことが明確に示されています.さらにこのバイオマーカーは,タウPETと非常に強い線形相関を示し(最大r²=0.56),特にBraak III〜VIといった中〜後期のタウ蓄積との関連が際立っていました.また,eMTBR-tau243は脳萎縮や認知機能検査(MMSE,mPACC)との関連も強く,進行期病理の指標としての有用性が高いことが示されました.よってeMTBR-tau243は,認知機能障害が出現した段階での「タウ病理の有無を確実に判定する」ための血液バイオマーカーとして非常に価値が高いです.将来的には,PETに代わる「臨床で使える確定診断ツール」となる可能性を持っています.逆にCU+(アミロイド陽性かつ認知機能正常)段階では上昇しないため,「発症前の予測」や「スクリーニング」には不向きです.
もう一つの研究は,スウェーデン・ルンド大学からの報告です.この研究ではLumipulseプラットフォーム(完全自動化された臨床検査用の分析システム)により血漿中のp-tau217を測定し,ADの診断精度を一次医療(かかりつけ医)および二次医療(専門施設)で評価しました.対象は1767名の認知症が疑われる患者であり,このバイオマーカーの診断精度は,二次医療施設ではAUC 0.93〜0.96,一次医療でもAUC 0.87と非常に高いことが確認されました.特筆すべきは,図2に示されているように,単一カットオフ(0.27 pg/mL)でも高精度ながら,二重カットオフ(0.22 pg/mL未満を陰性,0.34 pg/mL超を陽性)を導入することで判定不能域を除外し,診断精度(Accuracy)が最大94%という高い値を達成した点です.さらに,中間域の症例にはp-tau217/Aβ42比を用いることで,不確実な判定を10%未満に抑えています.また年齢や腎機能といったバイアスの影響も最小限であり,ルーチン検査への導入可能性が高いことも確認されました.つまりp-tau217は早期診断,スクリーニングに使用できます.
この2つのバイオマーカーの違いを表にまとめました.eMTBR-tau243は,脳内のタウ病理の進行を直接反映するマーカーとして,臨床試験や病期分類において有用です.一方で,p-tau217は,診断の初期スクリーニングや一次医療における活用に最適です.近い将来,血液検査項目のなかに,ADスクリーニング(p-tau217)とAD確定・病期判定(eMTBR-tau243)という2つが並ぶことになりそうです.ADの個別化医療や新規治療法の評価がさらに前進することが期待されます.
まさに驚くべきスピードで研究が進んでいきます.しかし,新しい技術には新しい社会的・経済的・倫理的問題が伴いますので,その準備が必要です.これらの議論を急ぎ進める必要性を強く感じます.
Horie K, et al. Plasma MTBR-tau243 biomarker identifies tau tangle pathology in Alzheimer’s disease. Nature Medicine. 2025; https://doi.org/10.1038/s41591-025-03617-7
Salvadó G, et al. Plasma phospho-tau217 for Alzheimer’s disease diagnosis in primary and secondary care using a fully automated platform. Nature Medicine. 2025; https://doi.org/10.1038/s41591-025-03622-w

・脳卒中における半側空間無視の頻度はじつは高く,脳幹・小脳病変でも生じうる
**岐阜大学医学部下畑先生の2025年4月20日のFB投稿です**
脳卒中後に生じる半側空間無視(hemispatial neglect もしくはvisuospatial neglect)は,日常生活への支障や予後不良と関連する重要な症候です.スイスの研究グループから,Stroke誌に半側空間無視の真の発生率を検討した前向きコホート研究が報告されました.この研究の特徴は,従来の紙ベースの検査(ベルテスト,線分二等分検査)に加え,より感度の高い評価法である自由視覚探索中のビデオ眼球運動計測(Free Visual Exploration with video oculography;FVE)というものを導入して,急性期脳卒中患者における半側空間無視の発生頻度を調べたことです.
対象は,2022年から1年間に脳卒中センターに入院した初発脳卒中患者626名のうち,条件を満たした221名に上述の3つの検査を行いました.この結果,全体で38.0%の患者に半側空間無視を認めました.この頻度は,これまで報告されていたものを上回っており,従来の評価では過小評価されていたものと考えられます.
特筆すべき点は脳卒中の部位ごとの無視の発生率を明確に示したことです.図のように右大脳半球に病変がある患者では約61%,右中大脳動脈(MCA)領域では64.2%,右後大脳動脈(PCA)領域は52.4%でした.一方,左大脳半球病変では22.2%で,MCA領域で20.6%,PCA領域で25%と,やや低めながら無視を認めています.さらに興味深いのは,橋や延髄,小脳でも14〜20%(!)で観察された点です.そして半側空間無視を呈した患者は認めない患者に比べて高齢で,年齢が1歳上がるごとに無視のオッズが4.1%増加しました.また,無視を認めた患者はNIHSSスコアが高く,血栓回収術を受けた割合が高く,心房細動の合併も多いという特徴がみられました.これらの所見は,半側空間無視がより重篤な脳卒中と関連しやすいことを示しています.
またFVEも有用性についても検討しています.96.5%の患者に実施可能であり,紙ベースのテストより実施率が高く,かつ検出感度も有意に高ことが示されました.今後,このような高感度・高実施率の手法を臨床に取り入れることで,半側空間無視の早期発見とリハビリ介入が可能となり,予後の改善にもつながると期待されます.
以上,①右半球病変に限らず,左半球・小脳・脳幹病変においても半側空間無視は一定の頻度で出現すると認識を改めること,②紙ベースの検査では見逃される可能性が高いため,FVEのような感度の高い方法を可能な限り導入すべきこと,が大切だと思いました.
Cazzoli D, et al. Incidence of Visuospatial Neglect in Acute Stroke: Assessment and Stroke Characteristics in an Unselected 1-Year Cohort. Stroke. 2025;56:00–00. (doi.org/10.1161/STROKEAHA.124.048907)

(作成者)峯岸 瑛(みねぎし あきら)